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ムスタファ氏のバブーシュ

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Photograph by Gilles ESPIASSE

 ある日のこと。ある偶発的な流れから、ふと我が家にやってきたバブーシュ。つま先がとがっている伝統的なスタイルのもの。使われている素材はいたって良質、どことなく味のある風合い。決して上等というわけではないその姿になぜか惹きつけられた。出どころを探して、翌々日にはもう、まだ見ぬ人を訪ねていた。

 

 杖をついて歩くその人との道ばたでの出会い頭は、工房前の噴水(水飲み場)でお祈りのための禊を終えた直後というタイミング。礼拝は後でもできるとばかりに、突然押しかけてきたよそ者を快く迎え入れてくれた。

 

 一坪あまりの場所に、定物定位、道具から何から整理整頓が行き届いた小宇宙。美味しい食堂はその厨房を見ればわかると言うけれども、職人の誇りと心意気は工房の佇まいにこそ表れるものかも知れない。

 ムスタファ氏。ここではあえて一流とは言わない。昼間はひとりで仕事をし、夜は仕事場に寝泊まり。郊外に住まわせた妻と4人の子どもたちには、週に一度会いに帰る。もっと家族に会って欲しいけれども。こうして昔ながらの生粋のマラクシの手仕事が、今も旧市街の中にまぎれもなく存在していることは、なんと心強く、なんと誇らしいことだろう。

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